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竹内瑠璃さん Vol.3
utsuwa
09

枝葉が揺れ、動物が遊ぶ−−−にぎやかな「森」を描く。
より広がりのある世界観を表現したい。

竹内 瑠璃さん

九谷焼

奈良県大和郡山市生まれ。

OLを経験したのち、作陶の道へ転向。

2006年 京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)卒

山本長左氏に師事、4年間陶磁器絵付け(染付)を学ぶ

2010年 石川県立九谷焼技術者自立支援工房にて3年間制作活動を行う

2013年 石川県小松市にて独立

器の世界に描く物語のヒントは、日々の何気ない“出会い”にあるんです。


個展のたび、「何か新しいものを見ていただきたい」という気持ちが湧き上がってきます。

昨年の個展では、新しい「色」を取り入れたのですが、今回はシンプルな色づかいと絵柄のまま、より「世界観」を広げて表現することに挑戦しました。これまで春を表現していた題材に、初夏の雰囲気を加えることで時間の幅を持たせる。

同じ柄でも動物たちを登場させたり、他の柄と組み合わせたりすることで場面に広がりを出す。そんな風にして、器にもっと“物語”をプラスできたらいいな、と思いながら、一点一点に思いを込めて絵付けをしました。

どんな世界を描くか−−−発想のヒントは、さまざまな瞬間、さまざまな場所にあるんです。のんびり散歩に出かけた山野の風景、博物館や美術館で出会った江戸時代の日本画、偶然目にした古い時代の工芸品など。

お風呂や寝る前などのリラックスタイムに、ふっと思いつくことも多いですね。不思議なもので、題材のヒントを得ようと意気込んで出かけると、ほとんどひらめくことはありません。なぜなんでしょうね(笑)。

頭の中のイメージをどう実現するか、そればかり考えている気がします。

今回描いた「山吹」も、自然の中で感じた美しさをヒントに、描く題材を決めたもの。美しい山吹を描きたい!という純粋な衝動から、楽しみながら描いた作品です。

描く題材が決まると、まずはノートに落書きのような感じでデザインを描きます。とはいえ、やっぱり三次元の立体物に絵を描くというのは、二次元の画用紙に描くのとは違った難しさ、面白さがありますね。


題材ではなく、「こんなシーンを描きたい」というテーマありきで生まれた作品もあります。今回個展に出展している「芳野」も、そうですね。吉野山の桜の花々の香りが、辺りに芳しく漂う様子を描きたいという思いから生まれた作品です。作品の隅々に咲き誇る桜を描くことで、たちのぼる香りを表現しました。

吉野山の「吉」にあえて「芳」の字を使うことは、テーマを思いついた時点で決めていたんです。

また、時には“色”から来る発想もあるんです。絵付けに使う絵の具は、水彩絵の具と同じように、単色の混合により色味を調整するんです。

今回、ある色を作ろうと混ぜたところ、意図せず雰囲気のいいグレーになり、「あ、これきれいだな」って気に入ってしまって。新しいグレーを使って描いたのが、「薫風(くんぷう)」や「弦月(げんげつ)」です。

「薫風」では新緑の季節にのんびり泳ぐ鯉の色として、「弦月」では半月に照らされた薄明かりの世界観を表現する色として使っています。

難しいのは、素地を焼く回数に制限がある中で、理想の色やイメージ通りの世界観をどうカタチにしていくか、ということ。

素地の良さを活かしながら、自分のイメージ通りの世界観を表現していく……そこには、奥深い難しさと楽しみがありますね。

寝ても覚めても「どうすればイメージ通りになるか」ということばかり考えているような気がします。